非常点呼 (逃亡、探索)
下士官抱いて寝りゃ兵隊臭い
伍長動務は生意気で
粋な上等兵にゃ金がない
可愛新兵さんにゃ暇がない
二年兵になると半教が上等兵になる、その内から伍長勤務上等兵(兵長)が二三名でる。
七中隊では 飯田、青木、芳山の三人がいた。
伍長勤務になると週番につくようになる、誰でもというわけにはいかぬ、飯田は武技が得意で専らその方の教導をしていた、芳山には軽機関銃教育があった、彼が週番についたかどうか憶えていない。
私は武技は下手であったが、中学校を出ていたのでよく週番につかされた。週番は中隊長に代って主として内務の仕事をしていた。
中隊長、中隊附将校、上級下士官は家庭があり営外勤務で、これらの退庁後は週番下士官が全責在を持った。
丁度私が週番についていた時、夜十時消燈ラッパが鳴って一時間、兵がやつと眠りについたばかり、前の六中隊は夜間演習から帰って床につく仕度をしている時であった。
石廊下の不寝番が「上等兵殿、開城がおりません」と言ってきた。この初年兵一番頭が悪いので私の係となっていた。私の横で寝かせていた。週番で私のいない隙に出ていったらしい。
裏の洗濯場、便所を探したがいない、はては逃亡かな?
大隊の週番士官に報告、聯隊の週番士官は直ぐ非常点呼を命じた、点呼ラッパが闇をついて鳴り響いた、ラッパは三回鳴る。聯隊本部前で一回、第一第二大隊の間で一回、第二第三大隊の前で一回。
聯隊本部前で葬常ラッパが鳴ると各中隊一斉に電燈がついて点呼をする。兵は一体何が起ったのだろうかと次の命令をまっている。
各中隊とも「人員点呼異状ありません」と言う報告であった。
週番士官は竹野少尉だったと思う。中隊長がお見えになるまでに、兵営の全便所、倉庫、くらがりを探させろと、自殺か隠遁か首釣り自殺かを探すのである。手分して探したがどこにも見当らない。
そのうちに中隊長と、二人の私服憲兵が来て、彼の所持品特に手紙を全部点検し捜索計劃をたてた。京城から東西南北に通ずる道路の要所要所に捜索隊を派遣し、市内は憲兵隊で心当りを捜索すると、朝方になって「異状ありません」と引揚げてくる。仲には朝の剣術に出ることがいらぬと畑のまくわ瓜を失敬して食べ朝飯が済んだ頃になって帰って来る組もあった。
流石憲兵で午前十時頃料理屋に登楼しているのを捕えて来た。
彼は一週間の営倉(牢獄)に付された。
七中隊の青木のお陰で寝入り端をたたき起された、青木いう奴えらい奴じや、聯隊全員たたき起して点呼した、お前のお陰で剣術をすることがいらなんだ、まくわ瓜がうまかった。翌日様々なことが耳に入った。