通信班長として (昭和七年秋季演習)
翌昭和七年、この年の秋期演習は中部朝鮮漢江川南方、清州、鳥致院、平沢、安城、水原、永登浦一帯で行われた。
既に私も二年兵で兵長をしており、通信班長としてこの演習に参加した。
私は第一構成班長で、宮村上等兵、前川二等兵、小林、大森、中山の初年兵、馬取扱兵の田原茂二等兵、それに素敵に格好の良い軍馬一頭と電話器二箇、五〇〇米巻線四巻をもらった。
本演習が吾吾通信兵が二年間練えに練えた檜舞台である。
重野中尉という頭脳優秀な通信隊長がついていて、歩兵七十九聯隊の通信と言えば、朝鮮部隊でも有名なものであった。
支隊対抗戦に、追撃戦、退却戦に、聯隊本部から前衛大隊へ、聯隊本部から旅団へ、師団へ電話を懸けめぐった。
追撃戦はまだよいとしても、退却行では本隊側は線を伸してゆくが、最後尾は器材を敵に渡す理にはゆかぬ、息もつかせず走りながら電話線を撤収した。