営庭
鳥の鳴かぬ日はあっても、銃剣術のない日はなかった。
戦争は刺すか刺されるかである、起床から朝食まで、夕食から日没まで、毎朝、毎晩、一日も欠かさず行われた。初年兵はぶっ倒れることもあった、すると水をぶっかけられた、正気づくと又防具を着けさせ突きまくられる。
私はその銃剣術が一番嫌いであった。
この広い営庭は、大正四年四月、この歩兵第七十九聯隊が出来て以来、幾万の士兵の汗と埃とぬかるみの思い出だ。それと腹の底からふり絞られる突撃の喊声でなくて何であろう。
村の乙女よいざいざ去らば 故郷を離れてアカシヤの兵舎
懐しと眺めし下弦の月も 今は淋しく竜山に照る
とげある思いを銃剣に頼り 叫ぶ大声の悲哀はつづく
御国を出てから早や二た歳を 涙でおくる七九の兵舎
愛し戦友今宵も露営、 受けし情のあの夜の月を
夜は夜で眠むる冷たき哨舎 思えぱ遠き故郷の空よ
ああ幸あれやアカシヤの花よ 心は残る七九の兵舎
あかしやの兵舎