起床
ここの規則はよく出来た
ねるも起るも皆ラッパ、衛兵整列食事まで
午前六時起床ラッパが鳴る。
新兵さんも古兵さんも皆起きろ
起なきや班長さんに叱られる
と聞えると言われていた。不寝番が"起きよ"とどなると全員一斉に起き寝具を畳んで、舎前に出て並び人員点呼をうける、この間二分とはかからなかった。勿論二階の者は駆足で下りてくる、点呼がすむとすぐ防具をつけて銃剣術で錬えられる。剣術が斉んでから顔を洗って朝食に就いていたように思う。
起床
内地部隊は洗濯も水だが朝鮮は寒いところなのでお湯の使用が許され、給与も内地の倍の十一円もらっていた。夕方には酒保に行く者もあった。酒保では日用品の外うどん、そば、寿司などがあった。うどん一杯が二銭か三銭であった。
六中隊の只友猛大尉は夜間演習の好きな中隊長だった。皆が酒保に行っている夕方六中隊の者は舎前に整列し、夜間演習に営門をくぐって練兵場に出ておった。
二年兵は呑気に酒保に行っている者もあったが、初年兵は洗濯をしたり、二年兵の洗擢物を取り入れたり、靴も磨かねばならぬ、班内の掃除もせねばならぬ、息つく暇もない。
束の間に時間が過ぎて、九時の点呼ラッパが鳴る。内務班ごとに兵は寝台の前に並ぶ、週番下士官が巡って来ると班長が号令をかける。
「第一班聡員二十八名、事故三名、現在二十五名番号、一、二、三、四、五、・・・・・事故の三名は師団当番一名、衛兵一名、入院一名外異状ありません」
一週一回位大隊の週番士官が直接点呼をする、その時は週番下士官が随行する。
点呼がすむと、その日の会報、諸注意、翌日の演習事項が下達され、それが終ると初年兵教育に、軍人に賜った勅諭が一人一人に言わせらわる。
- 一つ、軍人は忠節を尽すを本分とすべし。
- 一つ、軍人は礼儀を正しくすべし。
- 一つ、軍人は武勇を尚ぶべし。
- 一つ、軍人は信儀を重んずべし。
- 一つ、軍人は質素を旨とすべし。
- 我が国の軍隊は世々天皇の統卒し給うところにぞある、昔神武天皇みずから大伴物部の兵どもを率いて中津国のまつろわぬ者どもを討ち平げ給い、高御座に即かせられて天つ下しろし召し給いしより、二千五百有余年を経ぬ・・・・・・
頭の悪い初年兵は中々暗唱出来ず苦労しておった。
就寝
やっと今日の油搾りが終ったかと思う間もなく、十時の消燈ラツパが広い営庭に鳴り響く。
剣撃の声も杜絶えて消燈の
ラツパ響けばふる里恋し
ラッパはまた寝て泣くのかよ、また寝て泣くのかよ・・・と聞える
異郷の空に流される二回のラッパのリズムは、何とも言えない物悲しい淋しいものであった。
「やれやれ今日の一日も終ったか」
全営庭一遍に燈が消される。私は海外に出たくて朝鮮軍を志願して来たので、淋しいこともなかったが中には故郷の父母を恋いて、床の中で泣いている者もいた。
或は酒保で豆を買って来ておいて、床の中にかくれて食べている者もいた。
消燈後勉強しようと志す者は、十二時まで講堂で勉強することを許されていた。